今月の表紙
新しい院内感染症(クリプトスポリジウム)
巽 典之
1
,
井関 基弘
2
,
樋口 智子
1
1大阪市立大学医学部臨床検査医学
2大阪市立大学医学部医動物学
pp.1106
発行日 1996年12月1日
Published Date 1996/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543902938
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夏になれば伝染性下痢症で忙しくなるのが細菌検査技師である.この夏には大腸菌O-157による出血性大腸炎が大流行した.患者は生イチゴジュースのような下痢便から溶血性尿毒症性症候群(HUS)へとしだいに重症となる.患者6,500人を出した堺市の流行の際には私どもでも夜12時まで技師が動員されたことが記憶に新しい,このEscherichia coli O-157は米国オレゴン州ハンバーガー事件として知られるように,わが国だけの病気ではない.O-157感染決定は,培養大腸菌を抗原とし,市販の診断用O抗原K抗原混合血清および単独血清を用いての凝集反応でもって決定されるが,培養陰性の場合が少なくなく,このときには患者血清中の菌壁のポリサッカライドに対する抗体(IgM)の証明が診断の決め手になり,感染1週後に抗体価はほぼ最高値に上昇する.
一方,新顔の下痢性原虫症として最近注目されているのはクリプトスポリジウム症である(図d).これにいったん感染すると有効な治療薬がなく,下痢便に莫大な数のオーシストが排出され,オーシストは消毒液にも強いので院内感染も起こりやすい.糞便に直接手を触れないようにして加熱するか焼却するしか殺滅法がないという厄介者である.健常人なら感染後に抗体が産生されて1〜2週間で自然治癒するが,エイズや癌などの免疫不全患者では腸壁刷子縁に寄生する原虫(図c)が激しく増殖し,難治性下痢が進行する.
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