一口メモ
分離した細菌や真菌はどこまで同定すべきか
江崎 孝行
1
1岐阜大学医学部微生物学講座
pp.55
発行日 1996年6月15日
Published Date 1996/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543902739
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細菌の同定に簡易同定キットが導入されて久しいが,この方法が臨床細菌学の発展に重要な貢献をしてきたことに疑いを挟む人は少ないと思う.ところが目まぐるしく変化する細菌分類学を見ていると,これまでのようなキットによる同定方法では今後の分類学の変化に対応できなくなるのではないかと考えるようになった.幸いこの企画で表題のような内容で原稿をまとめるように要請があったので最近の考えをまとめて提示したい.
過去さまざまな同定キットの導入,評価および実際の使用経験から,市販の同定キットは臨床材料から分離された菌を使って同定すると7〜9割の同定確率がある.ところが正常細菌叢から分離された菌株を使って同定すると4〜7割程度の同定しかできない.しかも同定された結果が正しくないことが多い.また分離された菌株の同定にどの簡易同定キットを使えばよいかの判断基準も不明確である.例えばレンサ球菌の同定キットと命名されていても,分離菌がStreptococcus属の菌種であると決定することは現在の分類学では容易なことではない.従来カタラーゼ陰性のグラム陽性球菌をStreptococcus属として同定してきたが,この基準に当てはまる属は現在では15属を超えるからである.
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