- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
細菌の分類体系は16S rDNAの系統関係のデータが過去20年間に蓄積され,ほぼ再構築されたので,病原細菌は16S rDNAを調べれば,系統的な位置は容易に決定できるようになった.また菌種だけでなく,ひとつの菌種の株のデータも重要な菌群に関しては,多数蓄積し,菌種内の株の配列の違いも検討できるようになってきた.
データの蓄積から,16S rDNA菌種を同定する際に,下記の点が明らかになっている.
(1)菌種の分類学位置の決定:通常は500塩基程度の配列決定で,その菌株の属する属が特定できる.
(2)菌種の同定:ほぼ全塩基配列を決定し,種の決定ができる場合が多いが,腸内細菌をはじめ,医学細菌学上重要な菌種は分類が細かく分かれており,16S rDNAの全配列を決定しても菌種の特定ができないことがしばしばある.
菌種を同定する場合も16S rDNA配列の遺伝子多型が集中している箇所(16S rDNA配列の5末端から,150-250,および1100-1400の領域の決定を行えば,通常の同定は問題なくできる.
ところが,腸内細菌科の菌種では16S rDNA配列が同一属の中で極めて類似している.例えばKlebsiella属の菌種間の配列はほとんどの菌種で99%以上類似しており,配列決定の誤差を考慮すれば500塩基程度の配列決定では同定できないことが多い.
そこで国際命名委員会は勧告を出し,「配列を決定した16S rDNAが既存の菌種と3%未満の類似度があった場合は,全染色体のDNA/DNA類似度を計測し,70%以上の類似度があるかどうかで最終判定を行う」という方法を推奨した1).しかしこの方法は比較の標準となる菌株が必要で,実験室間の誤差が多いので,分類学者の間でしか利用されていない.わが国ではレジオネラや抗酸菌の同定にDDH(DNA-DNA hybridization)として利用されている.
そこで,命名委員会は上記の方法に代わる新しい菌種の同定方法に関する勧告を出した.新しい勧告では5種類程度の多型のあるハウスキーピング遺伝子配列を決定し,16S rDNA情報とともに多変量解析し,種を最終的に決定する2,3).
この勧告に従いGyrB,Hsp,Tuf,RpoB,など,16S rDNA配列より配列多型が多い遺伝子配列の急速な蓄積が行われている.その結果,16S rDNAとこれらの遺伝子を組み合わせることで菌種の同定を配列決定だけで容易にできる環境が整備されつつある.
さらに医学細菌学では病原体の最終決定に病原因子を決定する必要がある.特に下痢性疾患の病原体では16S rDNAや上記の多型遺伝子だけでは目的を達成できない.具体的には大腸菌は腸内フローラの好気性菌として106~108CFU/g生息するため,便の解析では必ず選択培地に発育してくる.集落に特徴をもたせて病原菌を見つけやすくするchromogenic agarが多数発売されているが,直接病原因子を検出しないため,見逃しのない検査はできない.
そこで大腸菌の病原因子(LT,ST,Shiga,EAE,Invなど)を検出する検査方法を追加する必要がある.
Copyright © 2006, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.