けんさアラカルト
病理診断と臨床診断
長谷川 章雄
1
Akio Hasegawa
1
1小田原市立病院病理
pp.884
発行日 1992年10月1日
Published Date 1992/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543901290
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診断(diagnosis)とはギリシア語のdia betweenとgnosis enquiryあるいはgnonai know,discernといった語源を持ち,広義には「他の種類とは異なった特徴の正確な認識,記述」ということであり,医学上は「特定の疾患名を付与する」といった意味になる.
いかなる時代でも,臨床診断はあくまで外来あるいはベッドサイドでの問診と理学的所見の把握に始まる.もし,ある会社社長が「仕事中についうとうとして,目が醒めた後,しだいに思い出したい言葉が出てこなくなったのに気がついた」という内容を訴えてきたとしよう.家庭医であれば,どうも失語症らしい,言語中枢がTIA(transient ischemic attack)あるいは梗塞で障害されたのではないかととりあえず考えようし,さらに神経内科に興味を持つ医師であれば診察により麻痺の有無などを確認した後,割にすらすらしゃべるし(fluent aphasia),望んだ言葉が出てこないため語義の近い言葉を探そうとする(semantic verbal paraphasia)ので,おそらくWernicke中枢が破壊された感覚性失語症であろうと診断するかもしれない(仮説設定).まめに剖検に立ち合ってきた臨床家であれば,シルビア溝後下方の側頭葉が梗塞で軟化している病理像までイメージするかもしれない.臨床診断はあくまでもものの考えかた(Gedankengang)が重視される.
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