検査ファイル
残存分化抗原
神奈木 玲児
1
1愛知県がんセンター研究所病理学第二部
pp.735
発行日 1992年8月1日
Published Date 1992/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543901244
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[1]残存分化抗原と良性疾患での偽陽性
単クローン抗体を用いた癌抗原の研究によって,多くの糖鎖抗原が腫瘍マーカーとして臨床応用されるに至っている.CA19-9などをはじめとするこれらの糖鎖抗原は,しかし,癌に特異的な抗原ではなく,その本質は発育分化抗原である.胎児における器官形成や細胞の分化において,細胞表面の糖鎖抗原はたいへん劇的で,しかも秩序立った変化をみせる.未熟細胞には,未熟細胞に特異的な抗原が発現されている.細胞が分化して成熟細胞になると,未熟型の抗原は消退し,成熟型の抗原と交代する.癌のマーカーとして検査に用いられている糖鎖抗原は,これらの抗原のうち主として未熟細胞に特異的に発現される抗原である.癌細胞は未熟細胞の性質を示し,癌患者血清中ではこの未熟型抗原が増加するからである.
しかし,正常な未熟細胞が分化していろいろな成熟型細胞となるときに,細胞の系統(lineage)によっては,未熟型細胞の抗原がそのまま残存することがある.このように,正常組織に残存する未熟型抗原を,残存分化抗原といっている.正常組織にも残存分化抗原を持つ細胞が存在して抗原を産生するので,これらの腫瘍マーカーを健常人で測定しても,正常値はゼロにはならない.また炎症などの良性疾患では,この残存分化抗原を持つ細胞がしばしば増殖したり,活発に抗原を産生したりする.このため,これらの腫瘍マーカーは,良性疾患でも時に偽陽性を呈する.
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