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はじめに
肝臓は“沈黙の臓器”ともいわれるように,重症化するまでは患者本人からの主訴として来院することは少なく,医療従事者が肝疾患を疑い問診しなければ採血結果をみるまで指摘されないケースも多い.従って内科への受診動機も,健診(検診)や他疾患加療中の採血検査における肝酵素値異常や軽度の黄疸となることが多い.この際,超音波検査を依頼するか,POCUSとして自らが検査を施行する2通りに分かれる.
本来,超音波検査は時間・空間分解能が高いため細かな情報を得ることが可能であり,近年の装置の発展に伴い,数mmの腫瘤性病変の指摘や,種々のソフトや血流評価を加味することで慢性肝疾患の進行度の過程や早期癌と前癌病変の鑑別診断などが可能となる精密診断的な一面も持つ検査法である.精査としての超音波検査とは別に,POCUSとして初診時に問診と同時に触診感覚で超音波検査を行うことも推奨されている.これにより原因疾患へのショートカットが可能となり,不必要な検査を省略することができ医療経済的にも有用性が高い.ここでは,POCUSと検査室で行う検査の違いも考えながら,肝酵素値異常(ビリルビンが高い,ALT/ASTが高い)に遭遇した際の超音波検査の活用法について解説する.
超音波検査室で行うスクリーニング検査では,系統的走査法として肝臓,胆囊・肝外胆管,膵臓,脾臓,腎臓,腹部大動脈を主な対象臓器とする.「腹部超音波検診判定マニュアル改訂版(2021年)」1)に記載されている推奨記録断面の25断面を,推奨記録25断面としている(表1).さらに適時異常所見がある部位でオプションとして拡大撮影,高周波プローブによる観察,カラードプラ,エラストグラフィ,さらには造影超音波検査などを付加して診断を深めている1,2).異常所見がない場合には目安として約10〜15分程度で終了することを目標としている.肝臓に関係する断面は全部で13断面であり,門脈圧亢進状態の把握という意味からの脾腫の有無を間接所見として入れると14断面,閉塞性黄疸も考慮し胆道・膵臓の評価の8断面も加えると22断面となる.
これに対し,POCUSの概念は,短時間(約5分)で見逃してはいけない重篤な疾患を見極めること,非専門医であっても診断可能となる疾患を対象とすること,装置の依存性の少ない重要な所見を対象とすること,としており,救急外来などで有症状症例に対しいち早くPOCUSを活用することが重要となる.POCUSでは9カ所の部位で操作を行うことを推奨し〔①心窩部走査:大動脈・下大静脈・膵臓・肝左葉・心囊液,②右肋間走査:胸水・腹水(肝表面)(右肺・肝臓・胆囊・右腎臓),③右側腹部走査:腹水(モリソン窩)(右腎臓〜結腸),④右下腹部走査:腹水(右傍結腸溝)(上行結腸・虫垂・回腸),⑤下腹部走査:腹水(ダグラス窩)(膀胱・前立腺・子宮・卵巣・直腸),⑥左下腹部走査:腹水(左傍結腸溝)(下行結腸・空腸),⑦左側腹部走査(左腎・結腸),⑧左肋間走査:胸水・腹水(脾臓・左肺),⑨腹部正中走査(①以外の部位の観察.小腸や皮膚・皮下組織・筋肉などの観察)〕(図1),10番目は視点を変えて周囲臓器の観察を行うこととしている.肝臓に関係する走査部位は他臓器と合わせて3カ所となっており,脾腫の有無を間接所見として入れても4カ所となっている(図1).POCUSではある走査断面を規定するのではなく,その部位で観察可能な臓器の状態を把握する.従って,同じ②右肋間走査であっても図1の3枚のように肝臓のほか胸水・腹水・胆囊炎の有無を評価する部位としている.
検査室で行う系統的走査とPOCUSで行う走査は同じ超音波B-mode像であり,装置の差以外にはみえる部位は同じである.さらに,実際の検査では1断面での静止画のみで評価するのではなく,その部位での扇動操作や呼吸性の移動による動画像で判断を下すため,実際には数十枚の静止画像が含まれている.両者の差は時間的制約であり,POCUSはある程度重篤な疾患に的を絞って割り切った検査法となっており,ある程度時間に余裕があり細かな情報を拾い上げることを求められる検査室での検査との相違点といえる.もちろん同じ検査法であり,熟練者においてはPOCUSで施行する3カ所の走査で系統的走査とほぼ同等の評価が可能な場合もある.POCUSは,非専門医であっても判断可能な疾患を対象としており,観察のポイントを逃さないことが重要となる.今回ここでは肝酵素値異常(ビリルビンが高い,ALT/ASTが高い)を呈する肝・胆道系疾患の,POCUSからみる超音波画像の特徴を解説する.
*本論文中、[▶動画]マークにつきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年3月31日まで)。
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