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はじめに—医療紛争の現状
医療紛争とは,医療機関・医療従事者と患者やその家族との間の医療に関連した紛争をいう.医療紛争は,診療の過程で,医療事故,合併症・偶発症あるいは副作用(死亡・後遺障害等)が発生した場合に医療過誤か否かを巡る当事者の争いが中心となるが,医療従事者の言動(接遇)に対する患者側からのクレーム,さらにはモンスターペイシェント対応も含まれるなど裾野の広い概念である.そのため医療紛争の現状について正確な把握は困難であるものの,最高裁判所ホームページにて公表されている医療訴訟の推移は現状把握の参考となる1).
提訴件数は,2004年の1,110件をピークに減少傾向を示し,直近の10年ではおおむね800件程度を推移し,今後も同様に推移するであろうことが予想される(図1)1).直近10年の既済事件における診療科別統計では,最も訴訟件数の多い診療科は内科であり,続いて外科,整形外科,歯科の順となっている.かつて産婦人科が訴訟になりやすいといわれていたが,産科医療補償制度が整備されて以降,減少傾向を示している.一方,歯科領域の訴訟件数が増加傾向を示していることが近年の特徴といえよう.歯科領域は主観的な訴えも多く,高額な賠償とはなりにくいため,費用対効果の面において訴訟での解決になじみにくいと考えられていたが,歯科領域の訴訟件数の増加は,死亡や重度障害などが発生しなくとも訴訟へと発展する可能性を示唆している.
臨床検査技師の業務には,検体検査における採血や検体採取,生理機能検査など,直接患者の身体に触れるものも少なくない.手術,投薬などの医療行為に比して身体的侵襲は軽微なものが多いとはいえ,採血により複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)などの重い疾患が発生することもある.また,歯科領域などの軽微な障害においても訴訟となっている現状に鑑み,決して楽観することはできない.
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