連載 病院管理フォーラム
■医事法・15
医療倫理と法的責任
植木 哲
1
1千葉大学法経学部法学科
pp.649-651
発行日 2008年7月1日
Published Date 2008/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541101245
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●法的責任の基礎
刑事責任であれ,民事責任であれ,これまでの話は医師が法的責任を負うことを前提としてきました.法的責任の基礎は,損害の発生を前提として,当該行為が客観的に見て違法と評価され(本連載第1回),しかもそれが主観的な観点から故意・過失(有責)と評価される行為に対する制裁措置です.このため行為者には帰責性(帰責事由)が必要であり,その判断の基礎が医療水準です.
法的責任は機能分化しており,刑事責任は主として行為者の故意を処罰の対象とし(刑法38条),民事責任は行為者の(故意を含む)過失に対して損害賠償責任を負わせる制度です(民法415,709条).いずれにせよ行為者の有責性が責任の基礎となりますから,刑事責任においては故意が,民事責任においては過失が帰責の根拠とされます.しかし,刑事責任は例外的に,傷害罪においては過失が大きな機能を果たすことから,帰責の対象としての過失致死傷罪が定められています(刑法209,210条).この中でも業務上必要な注意を怠った者には,特に重い責任が科されます(刑法211条).これを業務上過失致死傷罪といいます.医師の責任がこれに該当することは言うまでもありません(本連載第2,3回).
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