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はじめに
これまで経験のない新たな感染症が世界各地で次々に発生し,世界的な広がりが懸念されている.過去においては2003年に重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome:SARS)がアジアを中心に流行し,2009年には新型インフルエンザ〔インフルエンザ(H1N1)2009〕が世界的に大流行した(表1).最近では,2014年3月から約2年間,西アフリカでエボラ出血熱が猛威を振るうとともに,2015年には,隣国の韓国で中東呼吸器症候群(middle east respiratory syndrome:MERS)の患者が発生し,日本国内への流入が危惧された.多くの人口を抱え,国際化が進む東京は,このような新たな感染症が流入するリスクが高く,ひとたび流入した場合には,急速な感染拡大につながり,都民の生命や健康に重大な影響を及ぼす恐れがある.
一方で,2014年夏,約70年ぶりにデング熱の国内感染患者が発生し,都内で感染した患者は100人以上になった.これまで,デング熱は海外で感染し,帰国後に発症する輸入感染症として扱われ,国内で人→蚊→人とデングウイルスが伝播するという事態はあまり想定されてこなかった.過去に流行し現在ではほぼみられなくなった感染症にも,われわれは十分注意しなければならない.この他,同じく蚊が媒介する感染症であるジカウイルス感染症が2015年から中南米地域を中心に流行し,国内でも現地での感染による患者発生がみられている.
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下,東京2020大会)開催に向けて,今後海外との往来がますます盛んになるなか,これまで以上にさまざまな感染症の流入に備える必要がある.そこで,本稿では,まず東京都の感染症の発生動向と検査体制について紹介し,そのうえで,医療機関の検査室における東京2020大会に向けての備えについて考えていきたい.
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