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感情移入と臨床検査技師
医師になってすぐ,指導を受けた先輩医師から,「自分の家族は診るな」と言われた.医師といえども家族という感情から逃れられないので,冷静な判断ができないからであると説明された.感情移入という観点から考えてみると,自分の経験に照らしても確かにそうだと思う.しかしながら,この感情移入を避けるという考え方は,全ての医療職に当てはまるのであろうかと最近考えている.例えば,臨床検査技師の場合である.臨床検査技師の特徴は,患者との接点が非常に少ない点にある.最近でこそ多くの病院で採血を技師が行う体制となり,その採血の場で患者と接する機会があることはあるが,これは,臨床検査技師の本来業務である検査の場での患者との接触とはややニュアンスが異なる.依然として,臨床検査技師は,患者の顔が見えないところでその本来の業務を行っているといえよう.生理学的検査においては,確かに顔が見える形で検査が行われているので,以下の議論の対象外ではある.
さて,癌診療である.癌診療のmotivationはなんといっても,癌患者をはじめその家族の苦悩を理解することに始まると思う.臨床検査技師の場合,個々の日常検査が数値や所見としての言葉の連続に終始するため,検査の結果である数値や言葉の背景にこのような癌患者および家族の苦悩があることを考えることはあまりないように思う.苦悩を知ることが臨床検査の精度を上げるとはいわないが,背景因子として,人が存在することを時々思い描くことで,臨床検査自体がもう少し生き生きしたものになるのではないだろうか.数値や言葉が実際の人の顔と重なってくることで,より深い臨床検査の理解ができるのではないかと考えている.
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