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元来文学的感覚に恵まれない私は日頃から文学書特に詩にはとかく縁遠く,手のとどかない高尚なものとして敬遠していました.そんな私がある時,細川宏の遺稿詩集が出版されたから是非読むようにとのすすめを受けたので,気が重いながら本を開いたのです.ところが文字を追って行く私の目は次第にスピードを増し,一頁一頁にすい込まれるような気持ちで,いつの間にか重い気持ちなど消え去り夢中になって読んでいました.そこに書かれている詩は気どったものでもなく飾ったものでもなく,まさに病める人の心からほとばしり出た"言葉をこえた心の声"なのです.その一言一句,一節がじんじんと胸にひびいてくるのです.日頃私は口ぐせのように,若い技師や技師を志す人に向かって,"検査技師は患者の立場になって考えるような暖かい心を持たなければ真に患者のための検査はできない"と言っているのですが,この本を読んであらためて病者の心の葛藤をひしひしと感じました.
細川宏は,ここで紹介するまでもなく周知のことと思いますが,東大解剖学教授在任中に癌にたおれ惜しまれつつ昭和42年世を去られた方で,その病床でつづられた遺稿が出版されたものです.最初の「病者―ペイシェント―」には,長い病との戦いに身をまかせひたすら医学の要塞陣地からの援護射撃によって救われるのを待ちつづけ,見舞う人のいたわりと励ましによってやすらぎと勇気を与えられつつじっと耐え忍ぶさまが如実にうたわれています.また誰でもが心の底に持っている不治の病への不安を死者との問答の形で淡々と書かれており心をうたれます.健康な人が病者の心のうちを察しているつもりでも,それはさらにさらに大きく無限に広がって行く苦しみなのだということが感じられます.
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