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与えられたテーマは薬尿という言葉で,医学用語としても全く新しく,なんとなく使われ始めたものと言ってよいであろう.このような医学用語はいずれその意味するところが明確に定義付けされなければならないし,このまま放置すると本来の意味とかけ離れた言葉の使い方をされるようになり混乱のもとになることが多い.特に臨床検査や病態を表現する用語は技術的な進歩発展の速い分野であり,絶えず正確な意味を現すこと,つまり永久に変わらない定義付けというのは難しい.しかし,その時点での定義を明らかにしておかなければ論旨は明確さを欠くことになるので,一応の定義付けをしたうえで薬尿について検査する立場から説明する.
まず,"薬尿とは投与された薬剤及びその代謝産物のいずれか,もしくは両者を含有する尿"と定義することにする.ではここで言う薬剤とは何かというと,要するに薬効を期待して治療の目的で患者に投与された薬剤である.この場合,薬剤とは言っても我々の体内に常在成分として必要なもの,あるいは体内に入ってから常在成分に変わるものも当然含まれる.例えばしばしば用いられる薬剤としてブドウ糖,生理食塩水,各種のホルモンなども薬効を期待して投与されるのであり薬剤となるわけである.また薬剤の中には生体内成分としては全く存在しないか,存在しうるが直ちにほかの物質に転換してしまうものもある.例えば多くの化学療法剤は我々は常在成分として持ち合わせていない.また体内アルミニウム,ブロムなどは極めて微量に存在するが薬剤として利用する場合はかなり大量に投与される.そして,このような薬剤が尿中に混入することによって,臨床検査が妨害されたり,結果が修飾されたりすることが分かってきてにわかに"薬尿"が問題になり始めたのである.以下薬尿の成立する過程,薬尿による検査の妨害事例を述べ臨床検査と薬尿について紹介する.
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