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補体の免疫反応に及ぼす影響と役割
血清学的検査においては,往々にして血清中に抗体(または抗原)だけしか含まれていないかのように錯覚する場合がある.しかし周知のように血清は非常に複雑な組成を持っており,その中のタンパク成分で既に知られているだけでも約70種類もあり,抗体活性を担う免疫グロブリンは総タンパクの約1/4を占めるに過ぎない.その中の抗体活性をいろいろな方法で検出ないし定量するわけであるが,これは抗原抗体反応が非常に大きな特異性を持っているために,条件が適当であれば他の成分の影響はほとんど無視しうるためである.しかし同じ免疫反応に関与するタンパクである補体系は別で,これは免疫付着反応,溶解反応などのように免疫反応を増強する作用を持つ反面,沈降反応や凝集反応などの"目に見える反応"を抑制する性質を持っているからである.これは一見矛盾した作用のようにみえるが実はそうではない.生体中で大きな沈降物ができるのは余り望ましいことではなく,むしろ後でその処理に手を焼く結果となる.大きな沈降物が形成されるほうが良いと考えているのは検査をする人間の得手勝手なひとりよがりと言えるかもしれない.抗原と抗体との複合体は最終的には貪食細胞によって取り込まれ,他の適当な場所に運ばれて処理されるが,その際に細胞が食えないほど大きな塊では困るわけである.ところが補体の存在下で抗原抗体反応を行わせると,周知のように補体は直接抗原または抗体とは結合しないが,抗原抗体複合体ができるとそれに結合する.もちろん複合体同士がお互いに結合する反応も同時に起こるが,補体とちょうど競り合って結合する形となるために,それほど大きな分子になりえない.抗原と抗体のみが反応する場合には抗原が著しく過剰であると溶解性の複合体が形成され,みかけ上沈降反応が抑制される.補体の存在下での沈降反応あるいは凝集反応の抑制もこれと全く同じで,抗原抗体反応そのものを抑制するのではなく,格子の形成を抑制しているわけである.その証拠にすべての沈降物を10,000rpm以上の高速遠心で沈降させ,窒素量の測定を行うと補体の存在下のほうが補体の結合した量だけ窒素量は多くなる.
もっとも補体の存在はこのように抑制的に働くばかりではなく,補体依存性混合凝集反応と言い,お互いに交差反応を示さない二つの抗原抗体系に属する複合物は補体がなければ当然結合しないが,補体の存在下で反応させるとそれを仲介として互いに結合するために大きな凝集塊を形成するようになる1).このように補体が抗原抗体反応系に影響を与えることは何も事新しい事実ではなく,既に30年以上も前から分かっていたことなので昔から血清学的検査は必ず不活性化した後に行うことになっていた.しかし最近簡易検査の普及によって万事がインスタント化され,必要な操作までもとかく省略しがちな傾向にあることは由々しいことである.
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