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巨赤芽球性貧血とはビタミンB12,葉酸,その他の造血因子の欠乏,ある種の代謝拮抗剤の投与及び先天性代謝異常などにより核の成熟に必要なDNAの合成障害を生じ,その結果末梢血や骨髄に特徴的な形態学的,機能的異常を来した疾患群の総称である.したがって"巨赤芽球性"という表現ではあるが,赤芽球系細胞のみならず,顆粒球,巨核球の幼若細胞及び頬粘膜細胞などにも同じような異常が認められる.巨赤芽球性貧血はそれほど多い疾患でなく全貧血症例の5%以下である.この貧血は通常治療に対して見事な反応を示す.
本症は今から約150年前にCombeらが原因も治療も不明で極めて予後不良な悪性貧血として記載したのに始まる.その約30年後にはAddisonが本症と副腎の関係について考察し,その後Biermerが進行性悪性貧血の臨床像をまとめたが,この時代にはまだ血液の知識や検査が発達してなかったため,血液学的特徴をつかんでいない.約100年前にはEhrlichらが初めて大球性貧血,胃粘膜萎縮,神経症状などを悪性貧血の特徴として捕らえた.骨髄内には巨大な赤芽球系細胞(これを巨赤芽球と命名した)を認め巨赤芽球性貧血と言う言葉が用いられるようになった.当時より悪性貧血の原因に食事性の因子が推定されていたが,いかなる治療をほどこしても思うほど良好な効果が得られなかった.約50年前にボストンのMinotとMurphyらが本症に生の肝臓を投与し,画期的な治療効果を得てノーベル賞の対象となった.その数年後にはCastleが本症における胃液と肝臓食療法との関係を明らかにし,その成因が内因子(正常人胃液中にある)及び外因子(食物因子)からなる抗悪性貧血因子の欠乏という仮説を提唱した.一方,これらの研究と併行してMitchellらは35年前に菠穫草から他の造血因子,葉酸の抽出に成功している.この間肝臓内抗悪性貧血物質(外因子)の分離に目が向けられ続け,30年前に初めてRickesとSmithらが肝臓から微量で臨床的に有効な赤色のビタミンの結晶を取り出すことに成功し,それをビタミンB12(B12)と呼ぶようになった.
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