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子が親に似るという遺伝現象は,今まで述べてきたことから結局は,遺伝物質の自己複製と形質の発現という2つのことに集約されていると言えよう.このような遺伝物質は前に述べたように,生物のひとつの"種"を維持するのに必要な一そろいの染色体(ゲノム)のそれぞれに乗っていて,両親からもたらされた2組のゲノムの組み合わせ(2nあるいは2倍体)のもとに,その生物に固有の形質を発現する.他方,形態的あるいは生理的な形質が生化学的な形質としてとらえられるようになったことから,遺伝物質つまり核酸がどのような生化学的反応過程を経て"種"を特徴づける個体の形質となるかという点に,遺伝現象を明らかにする目標のひとつが絞られるようになっている.
遺伝物質がどのような機構のもとに働くかということは,遺伝学的立場(この患者は,家族的に出現し,また,子どもに多発している場合でも両親は正常でそのうえ近親結婚していることが多いということから,劣性遺伝子による先天代謝異常であろうと最初の発見者はみなしていた)からアルカプトン尿症発現の機構を化学的に結論づけた20世紀初頭に(12月号参照)その研究の発端がある.しかしこの方向における遺伝学すなわち生化学的遺伝学は,他の分野例えば生化学上の成果を待って1940年以降に,メンデルに始まったいわば古典的な遺伝学の生化学的な追究として発展していった.遺伝形質の発現の誘因になっている生化学的反応に関しては,高等なものでは個体の様々な形質を,反応過程によってとらえることはなかなか困難である.ただ,ヒトにみられる鎌型赤血球貧血症(sickle-cell anemia)は,形態的ならびに生理的な形質として個体に表現されるものを,生化学的形質にまで追究して解明されている例のひとつである.以下にヒトの赤血球を例として,今まで述べてきたことをまとめながら,説明する.
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