ひとこと
重い荷物を背負って
柴田 進
1
1川崎医大・内科
pp.10-11
発行日 1974年4月1日
Published Date 1974/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543200414
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"人の世は重い荷物を背負って遠き道を行くようなものである"と徳川家康が申しましたが,これは至言だと思います.この権謀術数にたけた英雄は私が好きになれない随一の人物です.しかし公平に見て彼のこのことばは今日でも真実をついています.人は皆多かれ少なかれ荷物を背負わされるものです.若い時には自分だけの荷物を,長ずると自分のもののほかに家族のものを,働き盛りの人の中にはそれに加うるに会社や役所や世の中全体の荷物をになって働いている者もいます.ある人々は坂道を歩きながら,行く手に幸福と希望が待っていることを信じて歩くことに生きがいを感じていますが,他の人々は荷物の重荷に耐えかねて歩むことに懐疑をいだき,世間や政府が自分を不当に扱っていると考えてうらんでいます.
この春に臨床検査技師学校を卒業された皆様は,いよいよ自分自身の荷物と人の荷物を背負って歩くことになったと見なしてよろしいでしょう.皆様の心の準備はでき上がっているでしょうか.これまでは学校で皆様の荷物の一部を教師や父兄が分担してくれました.社会人となった皆様と学生時代の皆様の根本的な差異は,学生の時には無責任なことができたけれども,現在では責任を負わされ,そしてその責任に対して俸給が支払われている事実です.たぶん皆様は俸給をもらうことによってお金の尊さをあらためて認識なさることでしょう.しかしここで注意すべきは,"お金がすべてではない"ことであります.人の働きおよびその成果は支払われる俸給の額に正比例して増大するものではありません.私たちが奮い立って働こうという気持ちになる原動力は"働きがい"を感ずるところに源を発します.
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