- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
肝臓を障害する原因には,ウイルス,アルコール,薬剤,自己免疫機序や最近注目されている肥満を伴う脂肪沈着など多くのものが知られているが,原因いかんにかかわらず障害が慢性的に継続することによって最終的に肝硬変症となり,肝臓の機能を全うできずに食道・胃静脈瘤,胸腹水,脳症など重篤な合併症を併発し,肝細胞癌の発生が増加することが臨床の場で大きな問題となっている.そして,この肝硬変症の主要な病態が肝線維化である.肝障害に対する創傷治癒機転として,肝星細胞が増殖して活発に線維成分を産生するが,肝線維化はこれが過剰となることによりもたらされると理解されている.したがって,肝線維化の病態を解明すること,臨床検査学的には肝線維化を正確に簡便に診断することは非常に重要となっている.
一方,最近の脂質生物学における進歩の一つとして,リゾリン脂質であるリゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid,LPA)とスフィンゴシン1-リン酸(sphingosine 1-phosphate,S1P)の多彩な生理活性の解明が挙げられる.“多彩”な生理活性とは,細胞の増殖,アポトーシス,収縮,運動などに及ぼすものであり,LPA,S1Pともに,血漿中の濃度を測定すると,その結果はin vitroの細胞系で作用を及ぼす濃度に非常に近いことが判明している.多彩な作用を有し,かつ血漿中でも作用を及ぼす可能性が高いほど豊富に存在することを考えると,実際にin vivoにおいてなんらかの役割を果たしていることが強く推定されるLPA,S1Pについて,筆者らは特に肝線維化における役割について検討してきた.本稿では,LPA,S1Pと肝線維化の関連についての現在までの知見を紹介する.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.