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はじめに
ヘモグロビンA1c(hemoglobin A1c,HbA1c)の国際標準化は,国際臨床化学連合(International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine,IFCC)HbA1c標準化ワーキンググループ(以下,IFCC HbA1c/WG)によって鋭意行われてきた.その骨子は,HbA1cの化学的な定義づけ(すなわち,ヘモグロビンのβ鎖のN末端アミノ酸バリンが糖化されたものとしている),それを定量的に求める標準操作手順の確立,そして,それに従ってIFCC値の測定を行うレファレンスラボラトリーネットワークの確立と維持の三つから成り立っている.一方,IFCCとは別の立場で国際標準化を進める米国のNGSP(National Glycohemoglobin Standardization Program)は,IFCC HbA1c/WGの標準化に対して,HbA1cは化学的に厳密に定義づけできるものではなく,臨床的診断を行ううえで有用性が裏付けされた糖化ヘモグロビンの画分であるべきであるとし,IFCCの定義によるHbA1cには臨床的裏付けがないため,IFCCの国際標準化は無用な混乱を臨床現場にもたらすだけであるとの主張を行ってきた.わが国の標準化もスタート時にはこのNGSPの主張と似ており,1994年に,当時の高速液体クロマトグラフィ(high performance liquid chromatography,HPLC)法による値を付したHbA1c測定用標準品JDS Lot 1を出発点とする標準化システムが,日本糖尿病学会(Japan Diabetes Society,JDS)の糖尿病検査の標準化のための委員会によって確立され,今日に至っている.
このようなわけで,呼び名は同じHbA1cでありながら,IFCC,NGSP,およびJDS(これら以外にもスウェーデンではHPLCであるMono-Sを用いた標準化を行っている)はそれぞれ定義も得られる値も異なっており,互いの変換式もないまま,各国,さまざまな体系のHbA1cの値が使用されてきた.このような状態は国際的にも学術的にも極めて不都合なことであった.しかしながら,従来から臨床的に用いられ,基準範囲も設定されている各国の標準化体系による値を,IFCCの体系の値に変更することは容易ではないため,国際標準化は大きな進展がみられないまま約10年の年月が経過していた.
2007年6月に,IFCC HbA1c/WGのネットワークラボラトリーの会議がアムステルダムで開かれた際に,IFCC HbA1c/WGの委員長から,国際学術4団体によるHbA1cの標準化のあり方に関するコンセンサスステートメント(合意宣言)が発表された.このステートメントの発表によって,これまで進展のみられなかったHbA1cの国際標準化は劇的な転換を迎えることとなった.本稿では,このコンセンサスステートメントの意味と,それが各国の標準化を今後どのように変えていくかについて,わかりやすく解説することとしたい.
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