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はじめに
複数のアミノ基をもつアルキルアミンをまとめてポリアミンと呼ぶ.ヒトの体内にはプトレッシン,カダベリン,スペルミジン,スペルミンの4種類とそのアセチル体があるが,尿中には,アセチルプトレッシン,アセチルカダベリン,N1-およびN8-アセチルスペルミジンの4種類のモノアセチルポリアミンが主として排泄される1).ポリアミンは増殖の盛んな組織で活発に代謝されていること,合成欠損細胞では外からの添加が増殖に不可欠であること,合成の律速酵素であるオルニチン脱炭酸酵素を強制発現させることで細胞の癌化が起こること,などから一種の細胞増殖因子と考えられており,既に1970年ごろから癌患者では尿中ポリアミン排泄量が増加することが指摘されてきた2).しかし,1990年代に入ると,尿中モノアセチルポリアミンは癌でないのに高値を示す偽陽性者や,癌であるのに上昇しない偽陰性者が多く,実用的な腫瘍マーカーとしては役に立たないという評価が定着するようになった3).
1990年代の初頭,われわれは高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography,HPLC)によるポリアミンの一斉分画分析法を確立して尿中ポリアミン成分の分析を進め,その過程で新規のポリアミン成分N1,N12-ジアセチルスペルミン(N1,N12-diacetylspermine,DiAcSpm)を見いだした.DiAcSpmは尿中ポリアミンのなかでは最も微量の成分の一つであるが,それまで知られていたモノアセチルポリアミンと比較して格段に癌の陽性検出率が高く,新規の腫瘍マーカーとして有望であると考えられたため,われわれはこの尿中DiAcSpmを検査項目として確立し,その普及を図りたいと考えた.そして,DiAcSpm特異抗体を作成して酵素免疫測定法(enzyme-linked immunosorbent assay,ELISA)による簡便なDiAcSpm測定系を作り4),1990年代後半から,大腸癌を中心に尿中DiAcSpmの腫瘍マーカーとしての特性についての本格的な研究を進めてきた5).
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