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可溶性フィブリンとは
可溶性フィブリン(soluble fibrin,SF)は,フィブリンモノマー(fibrin monomer,FM)がフィブリノゲンと複合体を形成したもので,血栓傾向を示す分子マーカーであるとともに血栓症のリスクファクターであると考えられている1,2).
凝固系が活性化されるとトロンビンが生成され,フィブリノゲンはこのトロンビンによって限定分解を受ける.トロンビンはフィブリノゲンのAα鎖からフィブリノペプチドA(fibrinopeptide A,FPA)を切り落とし,グリシル・プロリル・アルギニル(Gly・Pro・Arg,GPR)で始まる新たなN末端を露呈させる.フィブリノゲンはFMとなり,新たに露呈したN末端GPRは別のフィブリノゲン分子のDドメインと結合能を持つようになる.Dドメイン上にはGPRと相補的に結合する部位が存在し,その主要な部分はγ鎖Gln329(N末端から数えて329番目のGln,以下同様),γ鎖Asp330,γ鎖Asp364であることが知られている3).Dドメイン上のGPRと相補的に結合する部位はつねにフィブリノゲン上にあるが,GPRはトロンビンの作用を受けて初めてEドメイン上に現われる.このE-Dドメインの結合は生理的pHにおいては極めて強力で,Dドメインを含むフィブリノゲンやFMと速やかに結合すると考えられている1,2).このため,FMはほとんど可溶性の単分子として血中から検出されることはない.結合能力の強いFMは重合し,さらに活性型血液凝固第XIII因子(XIIIa)によってFM分子相互間で架橋を受け,強固な不溶性線維(安定化フィブリン)となって止血に寄与する(図1).この反応の過程で一部のFMはフィブリノゲンと複合体を形成し,そのまま可溶性の分子として血中を還流する.この複合体がSFと呼ばれるものである.
血中にSFが存在するということはトロンビンが生成し,フィブリノゲンに働きかけた証拠である.さらに,SFはその分子内のフィブリノゲン部分がトロンビンの作用を受けると,安定化フィブリンの構成要素となるため,SFは活性化された血栓性基材である1,4).血中SFの増加は,血栓傾向を示す分子マーカーであると同時に,血栓のリスクファクターであると考えられる.
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