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はじめに
近年,DNA配列決定方法の進歩とともにゲノムプロジェクトが加速的に進行した.その結果として,細菌を筆頭とする種々の生物の全ゲノム配列が既に決定されている(細菌―約150,始原菌―約20,真核生物―約30).これらの配列データはデータベースとして公開されており,インターネットを介して参照できるため,酵素開発に積極的に応用しなくてはもったいない.DNA配列データベースは,まさに宝の山といえる.膨大な量の機能未知蛋白質遺伝子が掲載されており,その中には新しい反応を触媒する酵素,従来とはかなり特性の異なる酵素が数多く含まれるはずである.さらには,診断用酵素として実用的なものも少なくないと予想される.
従来の診断用酵素の開発は,以下の流れ(スクリーニング法)で行われてきた.
(1)自然界の生物から有用酵素をスクリーニングする.
(2)酵素特性を調べ,診断薬への応用を検討する.
(3)遺伝子工学技術により生産性を上げる.
それに対し,新たな開発の流れとして以下の方法〔バーチャルスクリーニング法,virtual screening(VS)法〕が選択できるようになった.
(1)データベースを解析して有用酵素の候補を選択する.
(2)遺伝子工学技術により蛋白質を生産し,特性を調べる.
(3)診断薬への応用を検討する.
いうまでもなく,VS法では,データベース上の膨大な機能未知蛋白質の中からどのように候補を選択するかがポイントとなる.
われわれは,1997年に枯草菌全ゲノム配列が決定された後,その配列解析からグリシンオキシダーゼという新規診断用酵素を1998年に発見することができた1).VS法による診断用酵素の開発をさらに押し進めるため,現在,われわれは好熱好酸性始原菌Thermoplasma acidophilumを対象とした実用的酵素の探索を実施している.T. acidophilumは全ゲノム配列が決定され2),ゲノムサイズは1.56×106塩基対,1,509個の推定遺伝子から成り,データベース上で検索可能である.また,中等度に好熱性で,生育適温は55~60°Cなので,細菌のBacillus stearothermophilusなどと同様に診断用酵素の給源としてふさわしいと思われた.なお,生育pHは0.5~4だが,菌体内は中性付近に保たれており,菌体内酵素であれば特性的に問題はない.
本稿では,VS法によりT. acidophilumから新たに発見した耐熱性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼと,その臨床検査への応用の可能性について述べる.
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