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疾患概念
急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome,ARDS)は重症肺炎や敗血症,外傷など種々の侵襲の結果生じ,肺の急性炎症と毛細血管の透過性亢進とによる肺水腫を特徴とする症候群である.診断基準としては1994年にAmerican-European Consensus Conferenceにおいて発表された定義(表1)1)が広く用いられている.また,前記の条件のうち動脈血酸素分圧/吸入酸素濃度(Pao2/FIo2,P/F)比を300以下と緩やかにしたものを急性肺障害(acute lung injury,ALI)と定義し,ARDSはそのなかでもP/F比200以下と低酸素血症の程度が重篤なものと認識されるようになった.日本呼吸療法医学会の報告2)ではわが国での発症頻度は1.7人/10万人/年程度,死亡率は61.3%とされており,いまだ治療困難な病態である.
病 態
侵襲に対して生体は防御反応として炎症反応を呈する.マクロファージなどの免疫担当細胞はサイトカインをはじめとするメディエーターを産生するが,これらが過剰となり血中に吸収され全身をめぐると,炎症は局所にとどまらずに全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome,SIRS)を引き起こす.ARDSも同様に過剰な炎症の結果発症すると考えられている.ARDSを引き起こすきっかけとなる侵襲は大きく分けて肺そのものに対する直接的侵襲と,全身の炎症が肺に波及した間接的侵襲とに分けられる(表2).いずれの場合でも,過剰産生されたTNF(tumor necrosis factor,腫瘍壊死因子)-α,IL(interleukin,インターロイキン)-1βなどの炎症性サイトカインの刺激によって活性化されたマクロファージなどから産生される,IL-8をはじめとする好中球活性化作用を持つメディエーターが,好中球の肺への集積と肺毛細血管内皮細胞への接着とを引き起こし,そこで放出される蛋白分解酵素や活性酸素などが肺胞上皮細胞や肺毛細血管内皮細胞の障害を進行させる.これにより,当初は肺血管透過性の亢進から肺間質の浮腫と肺胞の虚脱とが起こる.肺障害の高度な症例ではこのとき,病理学的には硝子膜形成を特徴とするびまん性肺胞障害を呈する.このような状態が遷延すると肺の線維化が起こり,不可逆的となる.
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