失敗の経験
尿中尿素の分解
寺田 京子
1
1虎の門病院生化学科
pp.142-143
発行日 1968年2月15日
Published Date 1968/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542917688
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一般病院では初めての試みであった腎臓移植が成功して,Fさんが退院したのは,術後9ケ月後11月の下旬であった。移植の後数回にわたり起こった拒否反応を無事にきりぬけて,自宅通院が可能になった時,検査室の私達にもひそかな誇りがあった。昼夜をわかたない検査は,はじめの1ケ月間に1,200件にも達していた。拒否反応を発見する最も有力な手がかりが,尿の電解質の消長にある事が判明したのも,担当の私達にとって,何よりも嬉しい事であった。
退院後,Fさんは,毎週何日分かの蓄尿の一部をもって外来を訪れる。尿への電解質および尿素の排泄が正常に継続しているかをチェックする為である。このような検診がはじまってから,Fさんの尿で,尿素N排泄だけが古いもの程ひどく低値を示すことに気がついた。病院に来た翌日に,急に腎機能が低下すると考えるのもおかしい。ひょっとすると,保存中に細菌が繁殖して尿素を分解してしまったのかもしれない。とすると,今迄報告していた尿素Nの排泄は全くでたらめであったことになる。
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