Ex Laboratorio Clinico・47
スモンとの出会い
田村 善蔵
1
1東京大学,薬剤部
pp.1528-1532
発行日 1980年11月15日
Published Date 1980/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542915653
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
"どうして先の見通しも立たないスモンの研究を始めたのですか."と,あるとき虎の門病院の北村元仕博士に聞かれた私は,"研究費が欲しかったのですよ."と答えた."そうですか,金がないということは良いことですねえ."と一応納得していただいたが,振り返ってみるとどうも私にはドン・キホーテのように,やるべきだと思うと成算なく事を始める癖があり,そのためにいつも私の中には夢と不安が同居しているように思われる.おかげで白髪頭になっても若い気分でいられるのかもしれない.
今から20年以上前,私が薬学部薬品分析化学講座の助教授になりたてのころ,東京医歯大の小児科でニンジンが腸内有益菌と言われるビフィズス菌をin vivo及びin vitroで増殖させることが発見され,太田敬三教授からこの生育因子を追究してもらえないかとの相談があった.私はこの研究が人間の健康にかかわる大切な仕事であり,医学と薬学が協力し合える良い例でもあると考え,恩師の石館守三先生に申し出た.先生は"泥沼ですよ."と言われたが,結局許してくださった.青年研究者であられたとき,薬理と組んで"樟脳の強心作用の本態"に関する泥沼の研究を遂行されて学士院賞を受けられた先生も,弟子のことになるとこんなにも心配してくださるのかと,有り難く思った.
Copyright © 1980, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.