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ある疾患を診断する場合には,痛みがある,胸苦しい等々の苦痛を伴った症状を持って患者が医師を訪ね,医師は眼と耳と手を使って診察することにより病名についての方向づけをし,必要な検査を行い,診察により疑った病名を確認するという順序で行われる.しかし糖尿病,特にインスリン非依存型はその初期にはきわめて症状に乏しい.しかし十分注意すれば夜中にトイレに起きるようになった,多少体重が減り気味か?以前に比べ少し疲れやすいかもしれない,ということが気づかれる場合が少なくない.しかし,特に医師より指摘されなければ,通常の変動の範囲と考えて患者自身では病的なものとしては取り上げないことが多い.したがってとつぜん昏睡で発症する小児のインスリン依存型糖尿病を除いては,健診により尿糖が見つけられる場合や,他疾患にて受診した際の検尿による尿糖発見が,糖尿病診断のきっかけになることが多い.もちろん非常に急速なやせ,口渇・多尿・強い疲労感などの比較的はっきりした症状から医師を訪ねることもあるが,その場合,合併症の存在することもまれでない.最悪の事態は視力が低下し眼科医を訪ねて糖尿病が発見されることで,このような場合その後の網膜症の進行はきわめて早く,治療が十分に行われてもしばしば失明は防止できない.
このような糖尿病に特有の合併症(網膜症,腎症,神経症といった糖尿病による組織変化で日常生活を著しく障害し,時には生命を脅かす)を予防し,その発症・進展を遅くするためには糖尿病の早期発見,早期治療が不可欠である.そのような意味でもまったく無症状のうちに検尿による尿糖の発見(食後尿糖でないと軽い糖代謝障害はつかまらない),血中ブドウ糖の測定(経ロブドウ糖負荷試験)による糖尿病の早期診断はきわめて重要である.
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