技術解説
アニサキス症—その病理診断を中心に
吉村 裕之
1
1秋田大・寄生虫
pp.702-707
発行日 1972年7月15日
Published Date 1972/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542907671
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消化管にみられる好酸球肉芽腫形成炎は,回腸末端炎,またはクローン病とも呼称されるものもあり,また胃における好酸球蜂窩織炎についても先人により多数の報告がなされている.その本態については議論が多く,この中には病巣内に病理組織学的に寄生虫体の断端が見いだされたとの記載がなされているものがある.わが国においてもすでに塩田(1940),工藤(1951),砂原(1954)らの報告で,腸壁の好酸球蜂窩織炎の所見の中に幼若回虫(?)の断面を認めており,胃においても越家(1954),村上(1960),内山ら(1961)らは幼線虫の断面が認められたとしている.
近年これらの病因論に新しい問題の提起がなされた,アニサキス症である.この直接の動機となったのはオランダのVan Thiel (1960-62)であって,氏らはロッテルダム近郊で11名の急性腹症を訴えて外科的に手術された患者の小腸病巣部から,ある種の幼線虫を見いだし,この寄生虫はこの地方で多量にとれるニシンに寄生するEUS-toma rotundatumであろうとした.同時に患部はいずれも好酸球肉芽組織であることを明らかにした.後日,彼はこの幼線虫は実はアニサキス(Anisakis)であると訂正し,本症をアニサキス症(anisakiasis)と呼称すべきであると述べている.オランダにおける患者の多くは漁夫で,ニシンの生食または不完全料理によってこの幼線虫が消化管壁に穿入して起こったものと推察した.
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