総説
赤血球・メタボライジングマシン
三輪 史朗
1
1山口大・第3内科
pp.372-377
発行日 1972年4月15日
Published Date 1972/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542907577
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赤血球はヘモグロビンをつめ込んだ袋ではない
赤血球は骨髄中でその母細胞である赤芽球から作られる.赤芽球は体内のほかの細胞と同じように核をもっており,核酸(DNAやRNA)を合成し,また分裂増殖する能力をもっている.ニワトリなどではからだの中を循環する流血中の赤血球も核をもっているのだが,ヒトの流血中の赤血球は核を失ってしまっている.また,骨髄から出てきたばかりの幼若な赤血球(網赤血球)では細胞質内にミトコンドリアがあるが,網赤血球の時期を過ぎた赤血球ではミトコンドリアやリボソームは失ってしまう.
すなわち成熟赤血球は核をもたないのでDNAがなく分裂能がないし,またミトコンドリアやリボソームもないからRNAがないので,したがって脂質,タンパク,ヘムの合成はできず,TCAサイクルやチトクロームによる電子伝達系がないわけである.そうなると成熟赤血球とはなんの代謝能力もない,生ける屍のようなもので,ただ肺で酸素をくっつけ組織で離して酸素を供給してやる重要な仕事を営むヘモグロビンという物質をつめ込んだ袋にすぎず,そのヘモグロビン入りの円盤が,流血中で心臓のポンプ作用によってからだ中を受動的に循環しているだけだ,というふうに考えられた時代がそう遠くない以前にあったこともむしろ当然だといえよう.
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