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正常心電図といっても,正常範囲が比較的広く,種々なパターンがあるので,ここでは平均的正常心電図と電気生理学的事実を結びつけてみたい.洞結節から出た刺激は心房に伝えられ,洞結節の周囲がまず興奮し,興奮は波紋のように右心房から左心房へ伝わる.興奮部と未興奮部の境に起電力を生じ,その方向は未興奮部の方向に向かう.起電力は,洞結節周辺からまず左前下方に向かい,次いで左後方下に向かうので,P波は図1のように正面ではⅠ,Ⅱともに上向きとなり,Ⅲでは上向きまたは2相性となる.胸部誘導では,V1は2相性,V6では上向きとなる.P波の幅は約0.1秒で,心房の興奮開始から終了までの時間を示す.心房の興奮は,房室結節に伝えられる.房室結節では興奮の伝導は遅く,これがP-Q時間が0.12-0.20秒ある理由である.
興奮による心室起電力の軌跡は,図2のようにまず左室前乳頭筋起始部と中隔の興奮を反映し,右前横または上に向かい,次いで右前より左前下を回りながら左室側壁の興奮時,最大となって左後下に向かう.左室後壁,中隔上部と興奮するに従って,左後下より左後方,右後上方に達し原点に戻る.QRSはⅠ,Ⅱ,Ⅲとも上向きになり,ⅡのRが最大となる.心室興奮のはじめの起電力は右前上に向かうので,この部分がⅠ,Ⅱの小さなqとなる.また,終わりのcrista supra ventricularisの興奮は右上後に向かうので,Ⅰ,Ⅱ,Ⅲの小さなSとなる.胸部誘導では平均的な起電力は右前より左後方に向かうため,右胸部誘導V1,V2ではSが深くなり,左胸部誘導V5,V6ではRが高くなる.その中間V3,V4ではRとSがほとんど同じになる.すなわち移行帯である,右前に向かうはじめの起電力は小さく,これがV1,V2の小さなrおよびV5,V6の小さなqを形成する.終わりの右上に向かう起電力により,V5,V6の小さなSが形成される.したがってQRSの形は基本的にV1,V2はrS,V3,V4はRS,V5,V6,はqRsとなる.
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