高級技術講義
超薄切片法
渡辺 陽之輔
1
1慶応義塾大学医学部病理学教室
pp.459-464
発行日 1957年11月15日
Published Date 1957/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542905402
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超薄切片法とは少くとも0.1μ以下の厚さの切片を作ることで,その目的は云うまでもなく電子顕微鏡で観察することである。電子顕微鏡で観察する場合,何故そのように薄い切片が必要であるかといえば,大体次の3つの理由が挙げられる。即ち,その1は,電子線が物質を透過する力は極めて弱く,試料が厚い場合には電子線が全部試料に吸収され,高熱を生じ,試料が黒焦げになつてしまうからである。第2には,電子線の透過を許す程度の薄さの切片でも,薄さが充分でない場合には,切片内で電子線の散乱がおこり明瞭な像を作らない為である。第3は,電子顕微鏡の焦点深度が非常に深いことによるものであつて,切片内の構造はすべて平等な鮮明さで螢光版上に結像してしまう。この為厚い切片では,切片内の構造が互にかさなりあつて写真にうつり,細かい構造は蔽われてしまう。光学顕微鏡では,焦点深度が浅い為に切片が厚くても,焦点面に相当する部分のみが鮮明にみえるからあまり支障はないが,電子顕微鏡ではこのことが顫面に影響してくる。従つて細かい構造を見ようとすればするほど薄い切片が必要となつて来るわけである。
以上のような条件を満足させるためには大体0.05〜0.03μの切片を作ることが必要であると云われている。超薄切片法の発達に伴い,今日ではこの程度の切片を作ることはさほど困難ではなくなつてきた。
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