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1.はじめに
心室筋再分極過程の異常は重症心室性不整脈発生の要因の1つと考えられる.体表面心電図T波は心室筋再分極過程を反映するといわれ,体表面心電図によるQT間隔のばらつき(QT disper-sion)も重症心室性不整脈発生の予測因子として報告されている1).しかしT波は心拍数,自律神経などの影響により心拍単位でさまざまに変化しており,心筋内の再分極のばらつきは空間的なもの(spatial dispersion)のみでなく,時間的な変動(temporal dispersion)も認められる.このため心室性不整脈の起こりやすさの指標としてT波の変動を評価する場合には,spatial disper-sionのみでなくtemporal dispersionも考慮に入れるべきである.以前より肉眼的に判別可能なT波の一拍ごとの変動(T wave alternans;TWA)が心室性不整脈の発生前に認められることが指摘されており2),temporal dispersionの指標の1つとして考えられてきた.ところが肉眼的に認められるTWA (macroscopic TWA)は実際の臨床では極めてまれな現象であり,日常診療に広く応用されることはなかった.近年マサチューセッツ工科大学のRJ Cohenらのグループにより肉眼的に判別不能な極微細なレベルのTWA(microscopic TWA)解析法が開発され3,4),その機器を用いて検出されたmicrovolt levelのTWAが心筋梗塞後の患者における心室性不整脈発生と関連があることが示された5.それによれば心室性不整脈発生に対するTWA陽性のsensi-tivityは78%,specificityは89%と侵襲的な心臓電気生理学検査(EPS)の誘発率と差はなく5),加算平均心電図6),QT dispersion5)などのほかの非侵襲的検査のいずれよりも高かったという.このことからmicrovolt level TWAは新たな心室性不整脈発生の非侵襲的指標として注目されてきている.
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