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伝導ブロック(conduction block:CB)は,脱髄性ニューロパチーの診断において重要な所見だが,これまで様々なCBの診断基準が発表され,混乱をきたしていた。1999年,アメリカ電気診断学会(AAEM)から,CB診断のconsensus criteriaが発表された。これは今後の標準となるべきものと思われるので,ここに紹介する。基準値は各神経の各segmentごとに設定され,また時間的分散(temporal dispersion:TD)の程度によって異なる扱いがなされ,最終的にdefinite CBないしprobable CBを診断する基準が示されている。CBの診断においては,様々な技術的ハードルをクリアすることが極めて重要であるが,そのいくつかはAAEM基準においても強調されている。これをさらに補足する形で筆者らの意見を述べる。CB判定においては,単に正常でみられるCMAPの振幅・面積減衰を越えるだけでは不十分で,特にCIDPなどの慢性疾患においては,慢性の軸索障害やTDのみで起こり得る所見との鑑別が重要である。
はじめに
伝導ブロック(CB)は,脱髄性ニューロパチーや絞扼・圧迫性ニューロパチーにおいてみられる所見である。特にGuillain-Barré症候群(Guillain Barrésynd-rome:GBS)や慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)などの免疫性脱髄性ニューロパチーにおいては,診断基準にも含まれる重要な所見であり,また近年注目されている多巣性運動ニューロパチー(multifocal motor neuropathy:MMN)の診断にも,CBは決定的な鍵となる。このため,日常臨床においてもCBに言及される機会は近年増えているものと推測される。しかし,CBの診断には神経伝導検査上の様々な技術的ハードルをクリアすることが極めて重要であるとともに,最終的な判定基準としてどれを用いるかによって,結論が異なってくる可能性がある。したがって,CBの判定基準を確立することは重要な課題である。
CBとは軸索は保たれているにもかかわらず,軸索に沿った活動電位の伝導が途絶する状態として定義される。本来は1本の神経線維に対して用いられる概念だが,現実には運動神経伝導検査で遠位刺激時と近位刺激時の複合筋活動電位(compound muscle action potential:CMAP)の波形を比較することによって,神経幹中のある程度の割合の神経線維にCBが起こっていることを推測する方法が通常とられる。したがって,どの程度の波形変化,具体的には振幅や面積が遠位刺激に比べて近位でどれくらい減衰すれば,CBと判断するかという定義が,CBの判定基準を構成することになる。
これまでに多くのCB判定基準が提案されているが(表1)2, 3, 6~8, 11, 20, 21, 22, 27, 30, 33, 35, 37),それらの中で最も広く知られているのは,1991年にNeurology誌上に発表された,アメリカ神経学会(American Academy of Neurology:AAN)のAd Hoc committeeによる“Research criteria for diagnosis of chronic inflammatory demyelinating polyneuropahty(CIDP)”8)に記載されたCB判定基準(以下,“AAN基準”と呼ぶ)であろう。しかし後述のように,この基準は緩すぎるのではないかという批判があり,このためにより厳しい基準,すなわち,CBと判定するために必要な振幅・面積の減衰に,より大きな値を設定した判定基準がいくつか提案されたが5, 27, 30~33, 35, 37),様々な基準の併存は混乱を招く結果となっていた。
これを打開する目的で,1999年にアメリカ電気診断学会(American Association of Electrodiagnostic Medicine:AAEM)から“Consensus criteria for the diagnosis of partial conduction block”29)がMuscle&Nerve誌上に発表された。これは今後標準として用いられるべきものであると思われるので,本稿ではこの基準(以後“AAEM基準”と呼ぶ)を紹介し,“AAN基準”を始めとする従来の基準と比較して,どのような点が改善されているかも述べる。
なお,ここで用いられているpartial CBとは,complete CBに対する用語で,前述のように多数の神経線維の相当部分がCBとなっていると推測されるという意味であり,“部分CB”ないし“不完全CB”と訳されるべき用語であるが,通常の用法にしたがって,以下これをすべて単に“CB”と訳すこととする。本基準は,CBが高い確実度をもって診断できる(definite CB),もしくは中等度の確実度で推測される(probable CB)所見を定義することを目指すものである。
Conduction block(CB)is an important finding to diagnose demyelinating neuropathies. Several different criteria of CB have been proposed so far, bringing about significant confusion to diagnose CB. “Consensus criteria for the diagnosis of partial conduction block” was proposed by the American Association of Electrodiagnostic Medicine(AAEM)in 1999. Here we introduce these consensus criteria, because they should be the standard criteria on CB hereafter. They establish different limit-values for different nerve-segments, and for different degree of temporal dispersion(TD). Finally they provide standards to diagnose definite CB or probable CB. Many technical factors and pitfalls should be fully considered for making a diagnosis of CB correctly. Several of them are mentioned in these criteria, to which we add some issues in the present article. Decrement of amplitude or area of the compound muscle action potentials exceeding the normal range does not constitute a sufficient condition for the diagnosis of CB, especially in chronic diseases such as chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy. It is important to distinguish true CB from findings which can be observed for chronic axonal loss or for TD alone.
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