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はじめに
ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus; HPV)は,カプソメア構造をとるDNA型ウイルスであり(図1),皮膚における疣の起因ウイルスとして知られていた.近年の分子生物学的研究や分子生物学的手法を応用した診断法の確立によって,子宮頸部,陰茎などの生殖器や咽頭,食道,肛門など消化器粘膜における癌発生や疣贅状表皮発育異常症(epidermodys-plasia verruciformis; EV)患者における皮膚癌など扁平上皮系悪性腫瘍の発生に関与していることが明らかとなってきた.特に,子宮頸癌とHPV感染との間には強い相関関係が疫学的に証明されており1,2),頸癌予防のためのHPVワクチンの開発も現在進行しつつある.子宮頸癌に関して言えば,先進国ではその死亡率は滅少しつつあると言われているが,世界的にみれば,女性の悪性腫瘍の中で2番目に多い腫瘍である3).
現在,80のタイプ以上のHPVが分離されており,生殖器粘膜に感染するHPVだけでも35タイプ以上知られている.これらのうち,HPV 16,18型は子宮頸癌組織から分離され,HPV 6,11型は良性の尖形コンジローマから分離されることから,前者は悪性型(high-risk type),後者は低悪性型(low-risk type)という分類がなされている4).しかしながら,国や地域によってそれぞれのHPVタイプの頻度に差がみられるため,上記以外の多くのHPVタイプについての臨床悪性度の評価は完全に定まっていない.特に,欧米と日本では頻度が高いHPVタイプは異なっていると言われているため,わが国独自のデータの集積が重要な課題となってきた.また,欧米では子宮頸癌細胞診の偽陽性率を減らす目的でHPV遺伝子診断を取り入れることが勧められており5,6),わが国でもHPV遺伝子診断の臨床導入の機運も高まってきている.本稿では,最初にHPVによる発癌機構とそのタイプ分類法について簡単に概説し,現在行われているHPVに対する遺伝子・血清診断法の種類と臨床的意義について解説したい.
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