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1946年,Bloch1)とPurcellら2)によって発見された核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance:NMR)とは,静磁場中で原子核のスピンの向きが変化するのに伴って観測される物理現象のことである.NMRスペクトルは試料が示すNMR現象をグラフに表したもので,物質の化学構造と反応機構の研究手段として現在最も便利な方法の1つである.微生物に対してプロトンNMR (1HNMR)が用いられ始めたのは1970年代後半から3,4)で,主としてその代謝機構の解明が目的であった.
1995年,Delpassandら5)は高分解能1H NMR分光器を用いて,ヒト病原菌のNMRスペクトルを測定し,そのパターンから菌種の迅速同定を試みた.方法は,菌体を浮遊させた重水を入れた試料管を磁極の間に挿入して一定の周波数で照射し,さらに磁場を変化させ,吸収スペクトルをチャート紙上に書かせるものである.われわれも同様の方法でEscherichia coli,Staphylococcus aur-eus, Pseudomonas aeruginosa, Klebsiella Pneumoniaeの4菌種の1H NMRスペクトル測定6)を行った.図1に4菌種の典型的な1H NMRスペクトルを示す.4.5ppmより低磁場ではシグナルはほとんど認められず,菌種や菌株によってシグナルの位置や形状は異なるが,0.5~4.2ppmの範囲において約8~9のシグナル群が認められた.これらのシグナルのうち,4菌種いずれにも認められる6群を図1に示したように,それぞれの位置に応じて高磁場よりAからF群に便宜的に分類した.E.coliとK.pneumoniaeは0.8~1.10ppmに高いシグナルを認める菌株が多く,70~80%の菌株が対照としたC群のシグナルの50%以上であった.S.aureusの90%は3.27ppm付近に最も高いシグナルを有し,さらに特徴的な小さいシグナルを1.40~1.50ppmに認めた.P.aeruginosaに特徴的なスペクトルは3つのシグナルで構成される2.30~2.40ppmのシグナル群である.一方,K.Pneumoniaeは特徴的なNMRスペクトルには乏しかった.再現性は良好であり,超音波で菌体を十分に破砕した前後の試料においても,NMRスペクトルに著変はみられなかった.1試料あたりの測定時間は画像処理も含めて約40分間であった.
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