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はじめに
染色体は,DNAとヒストンからなるクロマチンが,細胞分裂中期にコンパクトに詰め込まれて形成される,いわば高次構造を持つクロマチン凝集体である.その染色体の高次構造を形態学的に詳細に明らかにしようとするのが電子顕微鏡観察法(electron micro-scopy)である.現在,染色体の観察に用いられている電子顕微鏡には,透過電顕(透過型電子顕微鏡transmission electron microscope;TEM)と走査電顕(走査型電子顕微鏡scanning electron micro-scope;SEM)の2つのタイプがあり,それぞれに適したさまざまな試料作製方法が開発されている1,2).
そもそも染色体の構造については,"染色体らせん説"が100年以上も前から提唱されている3).これは古くから光学顕微鏡によって植物の染色体にらせん構造がしばしば観察されてきたためである.ところが,動物細胞の染色体ではらせん構造はなかなか観察できず,特殊な処理を施すことによってヒトの染色体で明瞭ならせん構造を観察することに成功したのは1960年代に入ってからである4,5).それと前後してTEMが染色体構造の研究に盛んに応用されるようになり,染色体を構築している基本線維★の存在6)やその微細構造が次第に明らかになってきた.すなわち,染色体を構成するクロマチンの基本構造としてヌクレオソーム粒子構造(ヒストン蛋白のコアにDNAが巻きついたもの)が発見され7,8),次いでヌクレオソームの高次構造として,ソレノイドモデル★が提示された9).現在,ソレノイドモデルについては異論もあるが,これらを染色体基本線維の微細構造として支持する研究者が多い.
一方,SEMによる染色体立体構造の研究は1970年代から始まり,試料作製技術の改良の結果,らせん構造が電顕的にも証明されるようになり,今口ではDNAから染色体に至るまでの一連の構造モデルが三次元的に示されるようになった.しかしながら,染色体は試料作製方法や観察方法の違いによって実にさまざまな形態を示すため,構造モデルも"多重コイルモデル","折りたたみ線維モデル"10),"骨格とループモデル"11),"らせん状ループモデル"12),"クロマチンネットワークモデル"13)などさまざまで,真の微細構造の詳細や光顕レベルのらせん構造との関係など,いまだに一致した見解には至っていない.
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