コーヒーブレイク
残日録
屋形 稔
1
1新潟大学
pp.666
発行日 1995年6月15日
Published Date 1995/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542902502
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日残りて昏るるに未だ遠し.老いの心境をこの一語で見事に表現している小説「三屋清左衛門残日録」はテレビでもシリーズ化され,仲代達矢のこれも見事な演技もあり何度も放映されている.山形県の鶴岡に生まれた作家藤沢周平は昏い北海を背景にしているような地味な筆致の中に,小藩の家督争いなどを絡ませながら武士を描けば日常の中の武士道の厳しさを表現する手法は比類を見ない.この作品もその1つであるが,老いゆく日々の生命の輝き,魂のゆらぎは現代の我々の身にも共感すること多く,間然するところない.
この中の"草いきれ"という1章で主人公が少年時代を回想する一こまがある.野原を共に駆け巡り,素手で殴り合った友達を思い起こしながら重い夏かぜから回復する気力をとり戻す筋である,これを読みながら昔の武士の子は恥を知るを重んじ,屈辱には身命をかけて争ったのであろうと思った.また多勢で一人をいじめるという陰湿な行動は嫌われたであろうし,もしあったら刀にかけて立ち向かう勇気を日夜教えられ練ったであろうと考える.
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