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グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)はペントースリン酸回路の律速酵素で,細胞を酸化から守るために必要なNADPHを供給するという重要な働きを担っている.G6PDはその異常により遺伝性溶血性貧血をきたしうることで,臨床的にも重要な酵素である.G6PD異常症はアメリカ黒人をはじめ南西アフリカ,地中海沿岸,東南アジアなどに広く分布しており,全世界で約1億人以上が本症遺伝子を持っていると考えられるきわめて頻度の高い疾患である.G6PD異常症にはまったく無症状のものから,普段は健康でも感染症に罹患したり,ある種の薬剤を服用した後に溶血発作を起こすもの,慢性的に溶血性貧血をきたすものなどさまざまなタイプがある.重症例でも障害はほとんど赤血球のみに限られている.G6PDの遺伝子はX染色体上にあるので,通常,患者は男性である.風邪をひいたり薬を服用した後でコーラのような色をした尿が出たと訴える男性の患者が来た場合には,本症を疑うべきであろう.
G6PD異常症の診断は,臨床所見,ハインツ小体陽性赤血球の出現などが参考になるが,確定診断は赤血球中のG6PD活性の低下を証明することによりなされる1).赤血球中のG6PD活性は正常者でも比較的低値であり,酵素自体も不安定で失活しやすいので,精度の高い分光光度計,純度の高い試薬,熟練した技師による測定が望まれる.G6PD異常症の診断には赤血球中の酵素活性を測定することが必要であり,血清中のG6PD活性はG6PD異常症の診断には意味がない.後者はALT,ASTなどと同様,逸脱酵素であり,正常者でも活性値がゼロのこともありうるからである.また,NADPHは還元型グルタチオン(GSH)濃度の維持に不可欠であるため,G6PD異常症患者赤血球ではGSH濃度が低下している.G6PD異常症の診断上,重要な所見である.
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