特集 遺伝と臨床検査
I 総論
3.メンデルの法則と遺伝形式
梶井 正
1
,
岸 文雄
1
Tadashi KAJII
1
,
Fumio KISHI
1
1山口大学医学部小児科
pp.26-31
発行日 1992年10月30日
Published Date 1992/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542901273
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●メンデル遺伝(Mendelian inheri-tance)
高校で生物の授業を受けた人ならば,メンデル(Mendel)がモラビアの修道院の庭にエンドウマメを植えて交配実験をし,①優劣の法則,②分離の法則,③独立の法則を見いだしたことを知っているはずである.①は現代の用語を用いれば,一対の遺伝子座にある一対の対立遺伝子の片方が他方に対して優性に発現し,劣性の形質は現れないことを意味する.②は雑種第一代(F1)を自家受粉させて雑種第二代(F2)を作ると,F1では優性形質に隠されていた劣性形質が分離して3:1の比率で現れることをいう.これは理論的には重要だが,ヒトでは自家受粉しないから,そのままでは適用できない.
③は各形質が独立して遺伝することを示すもので,現在の連鎖(linkage)と逆の概念である.メンデルはエンドウマメの7種の形質を観察に用いたが,独立の法則を導くために用いたのは,そのうち3種である.この3種のうち,2種は1番染色体にあることが後に判明したが,その位置が遠いために両者の間に交叉を生じ,あたかも独立して遺伝しているかのような結果を来したものである.メンデルが連鎖をどの程度意識していたかは,今日では知るよしもない.メンデルが論文を書いた1865年当時は染色体の概念はなかったし,遺伝子が染色体に一定の順序で並んでいることも知られていなかった.メンデルは遺伝子をエレメントと呼び,一対のエレメントのうち片方が子供に伝えられるという概念を持っていたにすぎない.あるいは,実験を繰り返して,自分の仮説に適合する実験だけを書き残したのかもしれない。
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