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生体内の電解質は,相対的組成によって浸透圧や酸塩基平衝の調節,また筋の興奮や神経の伝達などに重要な役割をしている.その電解質の1つであるカリウムイオン(K+)は,臨床的に,人工透析,術後,腎移植後,周期性四肢麻痺,原発性アルドステロン症などの疾患の良い指標として用いられている.
血中K+の測定は,物理化学的測定法である炎光光度法,イオン選択電極(ion-seIective elec―trode;ISE)法などが主流となっている.炎光光度法は,炎の中に測定する試料を噴霧し燃焼させるために,燃料ガス圧,空気圧などの調整が必要であり,またプロパンガスを取り扱うことから危険を伴う.ISE法は共存イオンの影響を除去できないため正確度は炎光光度法に比較して劣っている.さらに,電極の寿命が短いなどの欠点がある.これらの物理学的測定法は,測定原理がほかの生化学項目の分析に用いられる比色法と異なるため測定に専用の分析装置や分析ユニットを必要とする問題点がある.最近,これらの問題点を解決する方法として酵素的測定法が開発された.Berryら1)は,ピルビン酸キナーゼを用いた酵素的測定法を開発した.ピルビン酸キナーゼは,K+,ナトリウムイオン(Na+),アンモニウムイオン(NH+4)により活性化される.そのため,Na+はイオン透過担体である"クリプタンド"を用いて,Na+とクリプタンドの複合体を形成させ,またNH+4はグルタミン酸脱水素酵素の酵素反応を利用し,K+測定に影響を与えるイオンを除去している.そして,ピルビン酸キナーゼ,乳酸脱水素酵素を用いて最終的にK+により活性化されたピルビン酸キナーゼの反応速度に比例するNADHの減少を340nmにおける吸光度変化から測定し,標準液との相対分析からK+濃度を求める.この測定法は,血中K+濃度を高い精度で測定できるが,3段階の酵素反応と,イオン透過担体を用いているため試薬コストが高くなる欠点がある.Kimuraら2)は,トリプトファナーゼを用いた酵素的測定法を開発した.トリプトファナーゼは,K+,NH+4,により漕性化される.またK+の存在下では,Na+は競合的にその活性を阻害する.そのため,あらかじめ試料中のNH+4を酵素反応を用いて除去する.また,Na+は除去せずあらかじめ試薬中に十分量のNa+を添加し,トリプトファナーゼの活性を阻害して試料中のNa+濃度では酵素活性に影響を与えないようにして,K+により活性化されたトリプトファナーゼの反応速度に比例するNADPHの減少を340nmにおける吸光度変化から測定し,標準液との相対分析からK+濃度を求める.その測定原理を図1に示した.測定感度は,前測定法に比べ少し低いが,直線性:7.0mmol/l,同時再現性(n=10):0.89~1.31%,炎光光度法をx軸としたときの相関性は,n=100,r=0.995,y=0.984x+0.091と良好である.また,種々の自動分析装置にも適用が可能である.さらに,2段階の酵素反応を用いていることから,試薬コストも前測定法に比べて若干低コストに押さえることができると考えられる.
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