- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
フィブリノゲン(fibrinogen:Fbg)は血液凝固能を評価する際に測定される凝固スクリーニング項目の1つである.測定原理の異なる測定法がいくつかあるが,分析装置への適用性や測定に要する時間・試薬コストなどの観点から,日本国内のほとんどの検査室ではClauss法を原理とした方法で測定されている(Fbg活性値).
Fbgは血中成分のなかで濃度の高い蛋白であり,さまざまな病態によって血中濃度は大きく増減し,基準範囲を超えた異常値と遭遇することはそれほど珍しくはない.臨床的には低値となる病態(後天的要因)の鑑別が重要視されることが多いが,凝固検査担当者はその低値が病態を反映した真値ではない,すなわち,偽低値の可能性を念頭に置いて鑑別する必要がある.直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)による偽低値(前項目「ヘパリン・トロンビン阻害薬の影響」参照)もあるが,検査室で遭遇するFbg偽低値の多くは採血不良による検体凝固やフィブリン(fibrin:Fbn)析出による吸引エラーなどの技術的要因である.一方,免疫学的測定法でたびたび問題となるような測定系に関連した異常反応はほとんど経験しない.
多くの場合,後天的要因や技術的要因が否定された場合には先天性の異常Fbg血症を疑うことになる(次項目「フィブリノゲン分子異常」参照).筆者は,Fbg活性値が異常低値を示し先天性Fbg異常症が疑われた患者で,免疫グロブリン(immunoglobulin:Ig)AのM蛋白が関与した後天性Fbg異常症の症例を経験した.
本稿では,偽低値を証明した精査方法とそのメカニズムについて解説していく.
Copyright © 2022, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.