元外科医のつぶやき・3
思い出深い感染症患者
中川 国利
1
1宮城県赤十字血液センター
pp.291
発行日 2015年3月15日
Published Date 2015/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542200269
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抗菌薬や抗ウイルス薬などが次々と開発され,感染症はすでに過去の病気と思いがちであるが,いまだ感染症は時に牙をむく.外科勤務医としてかかわった患者のなかで,いつまでも記憶に残る感染症症例を紹介する.
結核はかつて国民病といわれ,若者の死因の第1位であった.しかし,現在では罹患者は少なく,いわんや手術を要する例はごくまれである.だが,いまだ東南アジアでは結核がまん延し,来日した若者のなかにも重篤な結核が発症することがある.嫁のきての少ない東北地方の農村には,フィリピンなどからの来日花嫁が多い.その花嫁が,大量下血を主訴に緊急入院した.胸部写真では浸潤性陰影を,大腸内視鏡検査では出血を伴う多発性潰瘍を認めた.また喀痰や便からは結核菌を認め,しかも妊娠6カ月であった.そこで緊急に帝王切開を,引き続き結腸右半切除を施行した.両親や友達と離れ,言葉も通じない異国で,結核に罹患しながらの帝王切開と大腸切除,そして子育て.マスクを着けガラス窓越しにわが子を見守る母親に,エールを贈った.
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