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レジデントによるレジデントのためのがん診療マニュアル
『がん診療レジデントマニュアル』の書評を書くのは二度目である.1997年に創刊された本書は3年ごとに改訂され,今回が第6版になる.前回の書評は2003年の第3版であるから,10年が経過した.そこで前回の書評をあらためて読み返してみたが,基本的な印象は変わっていない.すなわち,初版以来本書のコンセプトである①国立がん研究センターの現役レジデントが執筆を担当し,各専門分野のスタッフがレビューする編集方針をとっており,極めて実践的かつ内容的には高度であること,②最新の情報をもとに治療法のエビデンスのレベルが★印の数により一目でわかるように記載されていること,③単なるクックブックのようなマニュアル本でなく,腫瘍医学を科学的・倫理的に実践するための必要かつ不可欠の要素がコンパクトにまとめられていることなどである.特に,がん腫別の診断や治療,予後についての最新のデータに基づく解説はもちろんであるが,インフォームド・コンセント,臨床試験のあり方,化学療法の基礎理論,疼痛対策と緩和医療,感染症をはじめとする化学療法の副作用対策についてもバランスよく記載されていることが特徴である.また,外形や様式も白衣のポケットに収まるサイズでありながら,活字は8ポイントの大きさで読みやすく,二色刷で要所を強調しているなど使い勝手の良さも受け継がれている.一方,内容としては第5版から3年間のがん診療とがん臨床研究の進歩が漏れなく盛り込まれている.今日のがん診療とがん臨床研究の進歩のスピードと豊富さから言えば,版を重ねるごとにボリュームが増えそうなものだが,内容がよく吟味され既に常識として定着している事項はできるだけ簡素にして全体のボリュームがコントロールされている.随所にある「Memo」には新しい用語の解説やトピックスが紹介されており,医療の進歩や変化が端的に表れているのを実感できる.
近年のがん薬物療法は切れ味鋭いが毒性にも特別な注意が必要な薬剤が主体となっており,薬物の作用機序,薬物動態,毒性の管理や効果判定などにおいて十分に訓練された医師の下で行われる必要性が増してきている.そのような背景にあって,国立がん研究センターはがん診療の専門家を養成するレジデント制度を含む教育研修プログラムを整え,多くのがん専門医を輩出してきた.本書は国立がん研究センターの腫瘍内科レジデントによるレジデントのための診療マニュアルである.常に携帯して参照できる実践的指南書であり,がん診療にかかわる若手医師にぜひ薦めたい一冊である.
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