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めまい・平衡障害は,身体の平衡を司る機構に不具合を生じたときに起こる症候である.このような機能障害の検査として生理検査(平衡機能検査)が重要であることは言うまでもない.めまい・平衡障害の診療に当たって生理機能検査を適切に施行し,その結果を正しく解釈することが正しい診断に至るための第一歩である.本号では,めまい・平衡障害の診断に必要な生理検査が特集されている.今回とりあげた検査によって,末梢前庭系に関しては半規管系と耳石器系の両者,また,反射系としても前庭眼反射系と前庭脊髄反射系の両者,また,めまい・平衡障害にかかわる中枢神経系の評価が可能である.とりあげた検査は,一般臨床で頻用されている検査が主体である.古典的なめまいの生理検査であるが,依然として重要な検査であるENG(電気眼振計)検査から,近年注目されるようになってきた耳石器系の機能検査であるVEMP(前庭誘発筋電位)まで含まれている.そのほか,話題として,必ずしも一般化されてはいないが,先端的な知識として知っておいたほうが望ましい検査についても紹介した.また,検査の基礎となる解剖と生理,疾患に関するまとめもあわせて掲載した.執筆者らはいずれもこの分野に造詣の深い専門家であり,この一冊で,めまい・平衡障害の生理検査全体についての基本的な知識を得ることができるものと確信している.
しかし,その一方で,めまい・平衡障害の診療には,本書による知識だけでは不十分な点のあることも認識しておく必要がある.まず,第一に,生理検査はめまい・平衡障害の検査のなかで大きなウエイトを占めるものではあるが,すべてではないということである.たとえば,もう一つの大きな柱に,画像検査がある.今日画像検査の発展は著しいものがある.画像検査と生理検査は臨床診断を進めてゆくうえでの車の両輪であり,いずれか一方にのみかたより過ぎるのは危険である.生理検査は機能の異常を調べる検査で,画像検査は形態の異常を調べる検査である.言いかえると,生理検査はシステムの異常を調べる検査であり,画像検査はスペースの異常を調べる検査である.したがって,両者で常に異常が検知できるとは限らないし,それぞれの異常はその意味を異にしている.しかし,可能な限り,一方の検査で異常が出た場合には,もう一方の検査で裏付けをとるという態度が重要であると考える.実習の学生に講義するときには,「犯罪捜査の際に一つの証拠に頼りすぎるのは危険で,かならず,別の面から裏付けをとらないと冤罪を生じてしまうのと同じだ」などというたとえ話をしている.画像検査については他の成書を参照されたい.
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