映画に学ぶ疾患【最終回】
「命の相続人」―多発性硬化症―
安東 由喜雄
1
1熊本大学大学院生命科学研究部神経内科学分野
pp.260
発行日 2012年3月15日
Published Date 2012/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542102961
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ディエゴはとあるスペインの総合病院のペイン・クリニックで働いている.映画「命の相続人」の話である.彼は,様々な疾患に伴う疼痛をもった患者を診ているが,患者にさしたる共感もなく,機械的に診ていた.医師として長らく痛みを訴える多くの患者と接してきた過程で,無感動,無感覚になっていったのかもしれない.彼は救急医療にも関与しているが,生死の決着が早い救急医療の最前線で慌ただしい生活をしていると,やはり個々の患者に対する共感が薄れていくものなのかもしれない.彼は研修医に対して,「一生懸命治療しろ.でも患者と目を合わすな」と嘯いたりする.彼は妻とも上手くいっておらず,別居同然の生活をしているようである.こういう場合,心が荒むものだ.
ある日,外来で診ていた多発性硬化症の女性患者サラが痛み止めを大量に飲み,昏睡状態でアルマンという男に付き添われ救急外来に運ばれてくる.彼女は身重である.治療中,彼女は心肺停止となるが,何とか蘇生する.ディエゴがアルマンに病状が厳しいことを告げると,彼は激しく動揺する.我を失ったアルマンは,ピストルを手にディエゴをこう脅す.「サラを必ず毎日診察しろ.とにかく治すんだ.最後まで診続けろ」.患者に特別な感情をもてないディエゴは「昏睡に陥っている患者を頻繁に診ても意味がない」と言い返すが,アルマンは突然発砲し,ディエゴの胸を撃った後,自分も自殺する.実はアルマンとサラは不倫関係にあり,難病を抱えながらも彼女は彼の子どもを身籠っていたのだった.
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