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最近,ある週刊誌に,作家,伊集院静氏が,妻であった夏目雅子の白血病との戦いの日々を手記にまとめたものが掲載されていた.妻子のいた彼と夏目雅子との出会い,結婚に至る道のり,楽しかった束の間の新婚の日々,急性骨髄性白血病の発症から闘病に流れた時間の重さ,そして運命の1985年のXデーに至るまで冷静に当時を振り返りながら,いまだに残る喪失感を淡々と書き込んでいた.夏目雅子は,最初はもち前の明るさと人を信じる育ちの良さで難局を乗り切っていたが,何回も強力な抗癌剤治療を受け,臓器が痛み,髪が抜け始めると,軽快しない病状の中で焦燥感を募らせるようになる.そんな中で,伊集院氏は,アメリカで白血病の新たな治療法が開発されつつあることを知る.すぐにでもその治療に飛びつきたいと思ったが,結局,妻の病状と治療の危険性を天秤にかけ,この治療を受ける決断ができないまま,時が流れ彼女は旅立つことになる.“あのときなぜ妻に最新の,最善の治療を受けさせなかったのか”と今でも悩むという内容が記されていた.“結局,彼女を死に追いやったのは自分ではなかったのか,もっとしっかり彼女を守ってやれば,死なずにすんだのではないかと悩み続けてきた”と締めくくっている.愛する人の死に対する喪失感,焦燥感は,時が経つに連れ,そうした形で昇華してしまうものなのかもしれない.
デニス・スレイモンは,乳癌患者の治療が生活のすべてのような患者思いの臨床医であり研究者であった.彼がそこまで乳癌の治療に執着する動機は語られていないが,とにかく乳癌患者のために,家族との団欒も,自分の時間も犠牲にしていた.映画「希望のちから」の話である.彼は,幾多の困難を乗り越え,製薬会社からのバックアップをなんとか受け,ついに,確かに乳癌患者の一部に効果を示すハーセプチン(R)を発見する.数々の研究結果から臨床応用できると確信したデニスは,臨床試験を行い,FDAに治療薬として認めてもらうために行動を起こす.それにはさらに大きな資金が必要であるが,彼は企業に断られても不撓不屈の精神で道を切り開いていった.
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