随筆・紀行
時代もの好き
屋形 稔
1
1新潟大学
pp.880
発行日 2010年8月15日
Published Date 2010/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542102373
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幼ない頃に読んだ本で一番面白く印象に残った本というと,片目片腕の怪人丹下左膳というから少し変っていたのかもしれない.小学校1年生の頃,東京在住の長兄が帰省の土産にこの新刊を買ってくるのをわくわくしながら待っていたのを覚えている.この怪人の出生がわが祖先の相馬中村藩であったのに親近感を抱いた覚えもある.後年この作者(林不忘)が私の遊学した新潟の佐渡出身の流行作家と知ってなおその感を深くした.
いまも小説や映画は池波正太郎や藤沢周平ものにはまっているが,丹下を演じた大河内伝次郎はその九州訛りとともに私を楽しませてくれた.戦時中になっても彼の凛然たる海軍将校役や,嘉納治五郎役を演じた「姿三四郎」など瞼の裏に灼きついた風格は忘れられるものでない.彼が京都の嵐山近くに遺した大河内山荘は一般に公開されているので私は京を訪れた際,何度か足を運び彼の風格とともに情緒を楽しむことにしている.
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