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1.はじめに
ミトコンドリアは酸素を用いて細胞内のエネルギー産生のほとんどを司る一方,アポトーシス(プログラム細胞死)においても重要な役割を担っていることから,細胞の生死を決定づける重要な細胞内小器官であると言える.近年の研究から,ミトコンドリアの機能維持は,細胞のみならず個体においても重要であることがわかりつつあり1),その分子機構を解明することは,基礎研究のみならずミトコンドリアに起因する一連の疾患に対する医療など,臨床応用の分野においても重要である.
一方でミトコンドリアはその代謝経路で生じる様々なストレスや,独自のゲノムに生じる変異などの要因により,正常な細胞内においても常に機能不全に陥る危険性をはらんでいる1).そこで,細胞の恒常性にとって重要な機能を保持するために,ミトコンドリアには積極的な機能維持機構が必要になってくる.例として正常ミトコンドリアが損傷ミトコンドリアに形態的に融合することで障害を相補する機構2)や,損傷ミトコンドリア上の蛋白質の選択的消化が挙げられる2).また一方では,救いようがなくなった損傷ミトコンドリアの問題が細胞内に広がるのを防ぐための,ミトコンドリアそのものの駆除機構が存在する2).
本稿ではミトコンドリアがその機能を正常に保つ機構,いわば「ミトコンドリアの品質維持」が細胞内においていかに行われているかを,パーキンソン病遺伝子産物であるParkin蛋白質をモデルに述べたい.そこには損傷ミトコンドリアを選択的に認識し細胞内から排除するために絶妙な仕組みが働いており,近年さらに注目を集める細胞内自食作用,オートファジーも関与していた3).まず基礎研究の立場からミトコンドリアの品質維持を担うParkinの機能解析による筆者らの研究成果を紹介した後,パーキンソン病の病態と発症メカニズムに対する作業仮説を提示することで臨床応用への可能性を論じたい.
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