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はじめに
2009年1月,東京都町田市の施設でインフルエンザウイルスによる院内感染,福岡での多剤耐性のアシネトバクターによる院内感染,2月には群馬県高崎市でのノロウイルスによる院内感染が次々とマスコミを賑わし,4月に入るとブタ型インフルエンザ(新型インフルエンザ)の世界的流行が報道され,社会の関心も感染に集中していた.
ひとたび院内感染が発生すると,医療を受ける側にとっては感染に伴う苦痛に加えて,在院日数の延期,医療費の増加,後遺症や死亡率の増加など不利な面が増大する.一方,医療を行う側にとっても感染のリスクに加え,原因の解明やその対策に追われ多くの時間を割かれ,病院にとっては治療費の負担や,損害賠償,時には風評による受診者数の減少や転医の増加など望ましくない事態に陥る.
院内感染が増加した要因として,医療従事者や社会の院内感染に対する認識の向上に伴う検出率の向上とともに,宿主の面からは易感染状態の宿主が院内に増加したこと,医療行為の面からはカテーテル挿入や人工呼吸器の使用など感染リスクの高まる処置や,免疫機能を低下させる薬剤の投与,原因微生物(特に細菌)の面からは治療に難渋する耐性菌の院内での定着・増加,環境の面からはワクチンにより感染症の発生数減少に伴う伝染性疾患の見落としや新興・再興感染症の出現での対応の遅れなどが考えられている(表1).
このような状況下で,感染対策(感染制御)はどの医療機関にとっても重要な問題となりつつある.前述のとおり,ひとたび院内感染に遭遇すると,患者の不利益はもとより病院にとっても多大な経済的損害を被ることから,感染制御は非常に重要な課題である.感染制御を行ううえでは,医療従事者個々の認識が重要であることは言うまでもないが,個人の力では限界があり,組織的に対応することが対策上極めて重要である.
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