随筆・紀行
せんべい考
屋形 稔
1
1新潟大学
pp.1592
発行日 2008年12月15日
Published Date 2008/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542101848
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春の連休のあと静けさを求めて老妻と京都へ行った.八坂神社の下に有名な祇園の花見小路があり,夕食時に前に度々行った割烹を探したが閉まっていた.近くに薬研堀という名の割烹を見つけ,江戸の昔から東京にある懐かしい地名(薬研は時代劇によく見る薬を砕く舟形の器具)なので入ってみた.職人が目の前で作る京料理も美味しかったが,珍しい煎餅状のものを見つけて聞くと,やはり京名物のゆばをせんべい用に特別作らせたものという.早速焼いてもらったがまことに風雅である.立て続けに注文し,3日間毎日食事に通う破目になった.
元来煎餅には目がなく幼年時のわが家の思い出というか風景の一つは母が座っている長火鉢と,その底の引き出しに常時保存されていたせんべいであった.よく乾いたかき餅せんべいと呼ばれるものであったが,今でも浪花あられとかふっくら餅とか呼ばれて入手できる.関東の草加煎餅とか新潟の柿の種なども今は広く普及して上越新幹線往復時のビールの友である.最近,栃木の那須温泉で求めたがんこ煎餅も食感が甚だよく時々取りよせる程である.
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