今月の主題 アスベストと中皮腫
話題
諸外国でのアスベスト中皮腫
高橋 謙
1
Ken TAKAHASHI
1
1産業医科大学産業生態学研究所
キーワード:
アスベスト
,
中皮腫
,
国際比較
Keyword:
アスベスト
,
中皮腫
,
国際比較
pp.1023-1027
発行日 2008年9月15日
Published Date 2008/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542101696
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中皮腫は,二十世紀前半まで未知も同然の疾患であった.中皮腫に関する最初の報告は1940年前後になされているが,Wagnerが1960年に南アフリカの鉱山労働者と近隣住民の石綿曝露と中皮腫の関係を報告1)するまで,本疾患に対する認識は乏しかった.さらに1964年,米北東部の建設断熱工の間で肺と胸膜の癌死亡が増加するとしたSelikoffらの研究報告2)をきっかけに,世界的に石綿疾患が注目されるようになった.
世界的視点に立てば,現在なお,中皮腫は稀で診断の難しい疾患と言える.このため,中皮腫に関してグローバルな実態を俯瞰できるような信頼性の高い報告は見当たらない.最近の総説3)では,中皮腫の罹患に関するデータを有する国は少数であるが,報告されている中ではオーストラリア・ベルギー・英国が最も高い罹患率を示し,百万人年当たり約30人(粗罹患率)とされている.これがどれくらいかというと,日本の人口を1.3億人とすると年間約3,900人の罹患を意味する.わが国の中皮腫死亡者数は2006年に1,050名4)であったから,いかに大きな数字であるかがわかる.周知のように中皮腫は進行が速く致死率が極めて高いため,罹患率と死亡率はほぼ等しい.また,わが国においては,中皮腫に限らずほとんどの疾患で全国レベルの罹患数は把握されていない(疾患別死亡数は正確で網羅的な統計がある).
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