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1.はじめに
ストレスを客観的,定量的に評価する方法は,精神科や心療内科をはじめとする臨床分野,公衆・労働衛生学などの基礎医学分野のほか,心理学や人間工学などの分野で求められている.そのための方法の1つとして,ストレスによって濃度が変化する体液中の物質の生化学計測法が確立されており,主にコルチゾールやカテコールアミンに代表されるストレスホルモンが測定の対象とされている.このうちコルチゾールは,視床下部―下垂体―副腎皮質軸のストレス反応に基づいて分泌され,血中から唾液に効率よく移行することが知られており,唾液中コルチゾールの測定にはELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)などの簡便な方法が確立されている.唾液は,サンプリングに伴う苦痛がほとんどないためサンプリング自体がストレスとならないこと,頻繁なサンプリングが可能であること,さらに,サンプリング場所を選ばないため屋外での実験にも適していることなどの利点がある.しかしながら,後述の通り,自動車運転やコンピューター作業のような日常生活で生じるストレスを評価する際には,コルチゾールでは十分に検出できないことがある.一方,カテコールアミンは,交感神経―副腎髄質系のストレス反応を反映しており,ストレスに対する応答性はコルチゾールに優る.カテコールアミンを測定する検体としては,通常,血液または尿が使用されるが,唾液での測定は困難である.そのため,両者の長所を併せ持つ新規なストレス指標,すなわち,交感神経系のストレス反応を反映し,かつ,唾液で測定可能な指標物質を探索した.
クロモグラニンA(CgA)は,主に副腎髄質クロム親和性細胞をはじめとする神経内分泌細胞に存在し,カテコールアミンの貯蔵や分泌に関与する可溶性蛋白質である1).また,ヒト唾液中には,CgAに特異的な配列を持ったペプチドに対する抗体と反応する蛋白が存在することが確認された2).そこで,唾液CgAのストレス指標としての特性を検討し,その結果,唾液CgAが精神的ストレスに対して高感度かつ特異性が高い指標であることを確認した2).本稿では,唾液CgAのストレス応答性に関するわれわれの検討と,最近の知見をふまえた唾液CgAの分泌メカニズムに関する考察,そして,唾液CgAによるストレス評価をめぐる最新の動向について紹介する.
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